花泥棒


 俺は世界一の大泥棒。
 人は俺の盗んだ物さえ気付かない。
 人は俺の姿を捉える事は無い。
 もちろん敵も多い。俺の邪魔ばかりする。
 仲間?いる事はいるが大概一人でやる。
 一人の方がシンプルだ。仲間は……そうだな、簡単に言えば話相手だ。
 だが、自分一人じゃ少し厳しい時、手をかしてくれるのやはり仲間だ。

 俺より力が強い   ジョン。   思いブツなどを運ぶときは大いに役に立つ。
 俺よりすばやい   ケリー。   厳重な場所での囮役としては最高だ。
 俺より魅力的な   マリリン。  こいつは時に裏切って敵につくこともあるんだがな。

 報酬は基本的には山分け。それがこの世界の暗黙のルール。
 だが山分けは俺は好きじゃない。他のヤツもそうだ。
 だから俺は殆どは一人。
 闇から闇へと姿を隠す。俺は世界一の大泥棒。



 今日も俺は盗みを始める。この時ばかりはいつまでたっても緊張はぬけない。
もっとも、緊張がぬけたマヌケな奴等は大概捕まってるけどもな。
 周りを見渡す。見張りが……一人か。もう少し様子を伺う。
一人だと思って別の部屋から出てくるなんてことはしょっちゅうだ。
だが、おれは大泥棒。そんなへまはしない。
 5分。じっと息を殺して様子を伺う。見張りのヤツは今本当に一人らしい。
さて、そろそろ行動に移すか。俺は見張りが俺の事を見えない死角にたつ。
息をひそめてその「時」が来るのを待つ。俺はその「時」が来るまでの緊張と
その「時」がきた瞬間の感覚がたまらなく好きだ。

 不意にその「時」は来た!

 見張りが少し、ほんの少しエモノと反対方向に向かって歩き始めたのだ。

 いまだ!

 俺はその瞬間を逃さない。風の様な速さでエモノを捕らえた。
 そして風の様に去って行く。見張りのヤツはエモノを盗られた事すら気付かないだろう。
 相変わらず自分でも惚れ惚れするくらいいい仕事だ。
だが、もう少し離れておかなければ……。俺が盗んだという痕跡さえ残してはいけない。

 大分離れた場所でようやく一息入れた。……ふう、ここならもう安全だろう。
「あ!」
 不意に声が聞こえた。しまった!俺とした事が見つかったか!
すぐさま声のした方を見る。……子供が一人と女が一人か。これなら簡単に騙せるだろう。

「おかあさーん。ニャンニャンがお魚くわえてるよー。」
「まぁまぁ。お利口なネコちゃんね。」

「ニャーン。」

 今日の獲物はサンマ一匹だ。
 いい仕事が出来たニャン。……おっと今のは無しだ。
 俺は「ミケ」。世界一の大泥棒だ。

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