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 遠くに見えるビルがある。ボクはそのビルよりもっと大きいビルの屋上にいた。
屋上から見えるその景色は自分の感じた思いを遥かに上回っていた。
「とびおりてー。」
 ボクはそう叫んだ。案の定周りの人はビクッと肩を竦め、ボクに視線を集める。
もうね、飛び降りるわけないっつーの。そんな事したら死ぬっつーの。ボクは長生きしたい。
「冗談でしょう?ここから飛び降りたら死んじゃうよ。」
 ふと少女がボクに声をかけてきた。黒く長い髪の綺麗な少女だった。
こんな冗談でもボクに気遣ってくれるのかと思うと悪い気はしない。
「冗談だよ。ボクは長生きしたいんだ。」
 少女の顔が少し曇る。しかし直ぐ元の幼い顔に戻って笑顔で
「そうだよ、キミは長生きしなくちゃいけないんだよ。ホラ病室に戻ろ。
屋上は風が冷たいから、お腹冷えちゃうよ。」
 そういってボクの車椅子を押しはじめる。少女は看護士だった。そしてボクは患者。
そしてボクは知っている。ボクの命はあと半月。それがボクの種族の寿命。たった10年。
「ボクが死んだら……。」
 エレベータの中でそう呟く。少女は答えないが聞いているだろう。
「生まれ変わるボクと結婚してね。今回のボク、独身だったから。」
 少女は何も答えない。それでもかまわず続ける。
「転生って便利だけどボクの記憶が半分無くなるのって正直嫌だよなぁ。」
「それってプロポーズかな?」
 突然少女が小さい声で答えた。でもとても声が澄んで通っていた。
「残念だけど、それは受けられないよ。私もあと半年位だもん。」
 少女は笑顔で答えた。少女も同種族だった。
「じゃあ、1年後に結婚しよう。約束だよ。」
「強引だなぁ。ふふ、わかった、約束ね。」
 小指と小指で小さく指切る。僕の10年はこれで十分でした。
後は転生するときにこの記憶が無くならない様に祈るだけだ。
「大丈夫、確立は1/2だ。」
 ボクはそう言った。少女は優しそうにいつまでも微笑んでいた。

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